the INTERVIEW

「正解の調整というのは絶対にある。
地元・下関のSGを獲る、経験とメンタルはあると思っています」

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下関で生まれ育った谷村一哉が、デビューから23年目でついに地元のSG切符をつかんだ。下関SGには2014年チャレンジCに途中参戦したことはあるが、初のフル参戦だ。8回目のメモリアルは6年前、1~3枠を山口支部が独占した優勝戦で、悔しい思いをした舞台でもある。敗戦を糧にその後、GIを2回優勝。自身を成長させてくれた大会で、慣れ親しんだ下関の水面で、レーサー人生の集大成となる舞台に懸ける意気込みを聞いた。
(インタビュー&構成/重松伸生・土屋幸宏)

強い選手は機力を仕上げてから自身のテクニックを活かす

― 2年ぶりのSG出場です。

谷村 選ばれた時は、正直、複雑な気持ちでした。ここ1年は結果を出せていなかったので、「自分で良いのかな」と。

 SGというのはトップクラスで活躍した人しか出られないステージですし、今年はGIもそんなに走れていません。せめてダービー勝率ぐらいは取っておきたかったし、今年の平和島クラシックにも出ておきたかったです。だから、今回のメモリアル出場は自力で勝ち獲ったわけではないという気持ちが強いですね。

― 今年は下関正月戦を含めて7回優出されていますが…?

谷村 かなり苦戦しています。キツイ、苦しい1年ですね。レースが終わってからも、レースやプロペラ、整備と反省ばかりです。エンジンが仕上げ切れていないから、レースでも後手に回って落ち着いたターンができなかったり、スタートで遅れちゃったりする。

 皆からは凡ミスと言われるんですけど、僕の中ではしっかりと考えて、準備してレースをした結果なので。課題しかないですね。

― リズムに乗れていない要因は?

谷村 まず、自分にはスタート力がないというのを改めて感じています。白井英治さんとか寺田祥さんのレースを見ると、一般戦ではエンジンが出ていなくても、力でねじ伏せていますよね。ターン力、調整力の違いも感じるんですけど、とにかくスタート力が違います。もちろんその差をどこかで埋めてやろうという気持ちはありますよ。常にプロペラは1節間ずっとやりますし、整備もまだまだ勉強しています。

 そのシリーズのエンジンとボートの組み合わせにおいて、正解の調整というのは絶対にあると思っています。強い選手はまずそこでしっかりとパワーを引き出します。その上で自分のターンとスタート力を生かしてくる。その流れを習得したい、というかチャレンジはしていますが、なかなか成績には繋がっていませんね。

 それに若い子たちもみんな凄いじゃないですか。桐生順平君、毒島誠君、峰竜太君とか。「こんなターンなんだ、真似できないな」と(笑)。レースのことを凄く考えているし、調整も巧いですよ。少しボートレースが変わってきたというのは感じます。

― 変化への対応策はあるのでしょうか。

谷村 20年も選手をやってきて、ここにきていきなり違うことはできません。いつも通りの仕事をするだけなんです。

 僕のスタイルは、出足寄りに仕上げて、どのコースからでもしっかりと走ることです。展開をしっかりと読んで、チャンスは逃したくない。展開にすぐ反応できる仕上がりになるようにイメージして調整をやっているので、伸びに偏ることはありません。先頭で抜け出すというより、中間着が多くなりますね。

― 手堅く得点を稼ぐレースですね。

谷村 外から高配当が出したい、ダッシュから一撃を決めたいという気持ちもあるんですよ。意外と思われるかもしれませんが(笑)。そのためにはスタートを行って、伸びも必要なんですが、伸びをつけるとレースがしにくいし、乗りにくさとか、体感とか…、難しいですよね。

SG初優出の若松メモリアルは緊張せず、全力を出し切れた

― 谷村さんにとってメモリアルと言えば、14年・若松大会のSG初優出ですね。

谷村 あれはたまたま乗れたような感じですけどね。優勝戦もいつも一緒に走っているようなメンバーだったので、当日はそのメンバーに対する緊張はあまりなかったんですよ。ただ、エンジン的には良くなくて、足の裏付けがない1号艇だったので、そこの不安は凄く大きかったですね。

 レースでは良いスタートも行けたし、力は全部出し切れましたが、その力が足りませんでした。その上で負けたのが白井さんで、改めて力の差を感じましたね。この人には勝てないなと。お客さんには6着で本当に申し訳ないとも思いました。

若 松 SG第60回ボートレースメモリアル 優勝戦

(2014年8月31日・第12レース)

着順 枠番 選手名 支部 進入 ST
1 2 白井 英治 (山口) 2 00
2 4 辻  栄蔵 (広島) 4 18
3 3 寺田  祥 (山口) 3 07
4 5 池田 浩二 (愛知) 5 13
5 6 三角 哲男 (東京) 6 13
6 1 谷村 一哉 (山口) 1 07

2連単 2-4 1,170円 (6番人気)
3連単 2-4-3 4,410円 (19番人気)
決まり手=捲り

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― 優勝戦の1号艇が決まってからのことは覚えてますか?

谷村 山口支部からは4人が出場していて、白井さんと寺田さんも優出していたんですけど、僕だけ違う部屋だったんです。なので、あまり話はしていないんですよね。

 ただ、前日からいつもと違う雰囲気で、白井さんと寺田さんが緊張しているのは感じました。特に白井さんはSGの優勝戦に10回以上挑戦して勝てていない時でしたから…、凄かったですね。

 あとから考えると、僕はそこまで緊張していなかったので優勝できなかったのかな、と。気持ちの強さが違いました。

― 16年に徳山でGI初優勝、続く宮島で2度目のGI優勝を飾りました。

谷村 徳山周年優勝は嬉しかったですね。僕は本栖(研修所・現ボートレーサー養成所)の成績も悪かったし(勝率4.31)、選手になってからも「記念レースで優勝したい」という目標を口にはしてはいましたが、実際に自分はそんな力があるのかな、と思っていた時期でした。

 徳山で優勝できたことは大きな自信になったし、もっと優勝したいという気持ちが湧きましたね。次の宮島で中国地区選を優勝できたのは、たまたまですけど(笑)。

若い頃の練習とプロペラ作りが今の自分の土台になっている

― これまでにターニングポイントってありましたか?

谷村 パッと思い浮かぶ出来事はないですけど、若い頃にしっかりと練習していて良かったなと思います。

 僕は福永達夫さんのグループで、師匠は吉本正昭さん。怖かったですけど、トップで活躍されていた方々です。「とにかく若い今がチャンスだから、しっかりと練習して土台を築きなさい」と、メンタルやレースに対する考え方とか、有難いアドバイスをたくさんいただきました。

 プロペラも毎日やっていました。なかなか結果が出なくてキツイときもありましたが、「諦めないで、繰り返しでもずっとやらなきゃいけない」と思ってやっていました。この時にやってきたことは自分には凄くプラスになっています。

 今でも継続は力なりの信念でやっています。吉本さんはプロペラ調整が凄く上手なので、いまだに教えてもらってますよ。

 家族の存在も大きいですね。子供は8歳、6歳、4歳の3人です。ほかにも仲の良い選手とか、後援会の方とか、自分が活躍すると喜んでくれる方々がいるじゃないですか。その人たちを喜ばせたいというのが、頑張れるモチベーションになります。特に「SGやGIは応援し甲斐がある」なんて言ってくれるので、気持ちが上がります。

下関オリジナルタイムでは周回タイムが参考になる

― 下関について教えてください。

谷村 強風が吹かない限りは静水面で、変なうねりも入ってきません。なので思い切ったレースができますね。ただ、水面が広い分スタートは風の影響があります。そこはしっかりと集中しないといけないし、ピット離れに関しても2マークまでが長いんです。それは僕も苦手なのでプレッシャーになります。

 インは強いんですけど、簡単に逃げられるかと言うとそうではないし、センター、アウトからでも十分に1着は獲れる水面だと思いますよ。 エンジンは差がありますね。ただ、今のエンジンは何節も乗っているし、調整面に関してのアドバンテージは絶対にあると思います。直前のお盆戦も乗りますしね。引きたいエンジンもありますよ。1163 ですね。

 それと下関って「オリジナルタイム(一周・まわり足・直線)」が出ますよね。あれは僕らが走っていても凄く参考にしています。特に僕は一周タイムを常に意識しています。やっぱりエンジンが出ていたらあのタイムが良いし、あれは凄く参考になりますよ。僕の場合は一周タイムと展示タイムが良かったら、エンジンが出ていると思ってもらって良いんじゃないかな。

 下関はデビューしたときから練習させてもらっていますし、デビュー戦も、初1着も下関でできたので、やっぱり地元意識というのは凄く強いですよ。

― 下関は3年前にナイターになりました。「海響ドリームナイター」のオープニングレースで優勝されています。

谷村 そうなんですよ。だけど、下関のナイターレースで優勝したのって未だにあの1度だけなんですよね。

 正直、ナイター水面は苦手意識があります。照明があるとは言え、昼よりは暗いので、スタートの勘ズレもあるし、道中が見づらいというのもあります。ただ、今はナイター場も多くなってきたので、苦手とか言っている場合じゃないんですけど(苦笑)。

僕の表彰式が終わるのを先輩たちに待っていてもらいたい

― 純地元・下関のSGに向けて抱負を!

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谷村 良いエンジンを引いたら生かせる経験とメンタルはあると思います。今回も勝ちたいと思っています。新しいプロペラゲージもイメージしています。

 本当に選ばれて複雑だったんですよ。山口支部には売り出し中の選手もいますし、若い子たちがSGを経験してもっと強くなったほうが、山口支部全体としては盛り上がるんじゃないか、とか。それでも、選んでもらったのは僕です。走らせてもらうからには、他の山口4人にも負けない成績は残したいと思っています。

 それに、今村豊さんたちはメモリアルで優勝してるじゃないですか。僕は毎回、その表彰式が終わるのをスーツで待っているわけですよ。今回はその方々を待たせる、そういう結果になったら良いですね(笑)。

profile

たにむら かずや

1978年12月15日生まれ。山口支部・82期。
1998年5月、下関でデビュー。1ヵ月後の下関・タイトル戦で水神祭を飾る。2002年9月、鳴門・タイトル戦で初優勝。16年1月、徳山・周年記念でGI初優勝。11年12月、住之江・GPシリーズでSG初出場、14年8月、若松メモリアルでSG初優出を果たした。同期には赤岩善生、中澤和志、坪井康晴、菊地孝平らがいる。

◆通算成績

  出走回数 優出 優勝 2連率 3連率
全種別 5,841回 194回 38回 45.6% 63.8%
S G 141回 1回 0回 26.2% 42.5%
G I 1,228回 7回 2回 30.0% 47.8%

◆全国成績(最近2節)

20年 7月 若 松 一般競走 2 3 4 1 1 1 3 2 2
20年 7月 びわこ 一般競走 3 3 4 1 3 1 3 1 4 3 2 1

◆下関成績(最近2節)

20年 6月 一般競走 3 1 2 4 2 1 2 3 5 2 6 1 4
20年 4月 タイトル 3 3 1 1 1 1 3 1 2

(2020年8月4日現在)