the INTERVIEW

一騎当千の

「マスターズは今までに
培ってきた
引き出しの出し合い。
地元のびわこで、
自分の仕事を
やり切るつもりです」

やまだ ゆたか
1966年(昭和41年)10月1日生まれ。滋賀支部・59期。1986年11月、びわこでデビュー。88年9月、大村・新鋭リーグで初優勝。98年3月、びわこ・周年記念でGI初優勝。99年8月、児島・メモリアルでSG初優出を果たす。通算4回のGI優勝(周年3回・地区選手権1回)はすべて地元・びわこで獲得したタイトルである。

 今回、地元からただ一人出場を決めたのは山田豊だ。かつては捲り屋として記念戦線で名を売ってきたが、最近は「何でもできなアカンという時代だから」と柔軟なレーススタイルをとっている。時代に合わせて生き抜くというスタイルは、激動の時代をしなやかに生き抜いてきた京都人の気風そのもの。滋賀支部を代表する強豪が、5つ目のGIタイトル獲得に挑戦する。

(インタビュー&構成/『マンスリーBOAT RACE』依藤研二)

「カドが4回取れる」捲りにこだわった時代

―山田選手と言えば"捲り屋"の印象です。

山田  選手になるために本栖研修所にいたときから、ダッシュ戦主体で練習していました。まだモンキーターンはなく、全速ターンの頃です。
 研修所のあった本栖湖は国立公園内にあったので、水上設備に制限がありました。ポールはありましたが、空中線を張れないので、スタート時の目標物は岸辺の標識板だけ。だから、進入は標識板に一番近い6コースを取るための争いでしたね。そのような環境だったので、6コースからのスタートが自然に身につきましたよ。
 僕が入った59期は、厳しい期でした。60名が入所して、最後まで残ったのは28名です。成績の悪い班に回されると、いつ「帰れ」と言われるか・・・。とにかく必死でした。

59期選手養成訓練修了記念
優勝戦
(1986年9月24日)
着順 枠番 選手名 出身 進入 ST
1 3 渡邊伸太郎 (佐賀) 3 04
2 6 植木 通彦 (福岡) 4 10
3 2 森  竜也 (三重) 2 28
4 5 坂東  満 (静岡) 1 14
5 4 崎野 俊樹 (福岡) 5 07
6 1 山田  豊 (京都) 6 12

▲決まり手=捲り

 あの頃は「新人は外から外」と言われた時代で、外から外へ回れないとダメでした。卒業までに全速ターンを覚えようと思いましたが、失敗して転覆すればこっぴどく叱られます。それどころか帰されるかもしれない。
 それでも、全速ターンができないと勝ち残れないんです。朝の早い時間、教官から見えない沖に出て、全速ターンの練習をしました。
 そうした期ですから、デビューしてからも勝ち残ることに"焦り"のようなものがあったと思います。同期ではやまと学校の校長をしている植木(植木通彦)さん、今年の九州地区選で優勝した今村暢(今村暢孝)さん、引退した崎野俊樹さんが大ケガをしています。僕もデビュー後に両手に大ケガをして、治るまで8ヵ月休みました。
 それでも、全速ターンへのこだわりを捨てませんでした。捲りにこだわったのは、そうした背景があったのかもしれませんね。

びわこが地元だった意味

―捲り屋になったのは、びわこの水面とも関係がありそうですね。

山田  昔のびわこは、今とは違って2マークの後ろは浅瀬で、2マーク後方からスタンドへ向けてカクンと狭まった形をしていました。浅瀬に入らないよう、これより先に行ってはいけないという目印で竹竿が何本も差してありました。標識板も200mではなく150mからで、1~5コースはスロー、6コースだけが変則的に2マークのバック側、200mくらいからダッシュをつけて、全速で行くことができました。

―最近、福岡の小川晃司さんがやっているみたいな?

山田  そうですね。竹竿を目標物にスタートを決めるんです。あの頃のモーターは、1艇身くらい伸びていきました。捲り方もいろいろで、絞り捲りにハコ捲り、チルトを3度に跳ねて捲ったりもしました。6コースからスーッと行って、内のみんなが落とした瞬間にバコーン!という感じで。
 そういうレースをするのに、それほど技術は要りません。内を絞ってしまえばインから逃げるのと一緒の形になるし、ハコ捲りも、全速で回って誰も引っかからなかったら、それはそれで技術は要らんわけやしね(笑)。ココとココの間を角度良く差す、っていう今みたいなレースの方が技術は必要でしょう。
 捲るために必要なのは、伸びを引き出す調整力です。そこは他の人よりもあったかもしれません。あとはスタート。スピードの乗った、良いスタートが行けていたと思います。

児島
SG第45回ボートレースメモリアル[MB記念]
優勝戦
(1999年8月29日・第12レース)
着順 枠番 選手名 支部 進入 ST
1 2 山本 浩次 (岡山) 1 21
2 4 松井  繁 (大阪) 5 22
3 3 川崎 智幸 (岡山) 2 18
4 5 植木 通彦 (福岡) 4 23
5 1 山田  豊 (滋賀) 3 16
6 6 星野 政彦 (兵庫) 6 22

▲2連単 2-4 2,280円
▲決まり手=抜き

―びわこGI4勝のうち、3回はカドからのレースですね。

山田  当時は、予選で1号艇から6号艇まで回ってきたら「カドが4回取れる」と考えていました。1号艇のときは、前付けに来る人に「どうぞ」とコースを譲って3カドにすることもできるし、ゆっくりしているようなら枠番どおりにインからも行けるし、駆け引きですね。あの頃のプロペラは、カドに引っ張った方が伸びていましたからね。
 SGで初優出したとき(1999年・児島メモリアル)も、優勝戦1号艇で3コースのカドに引きました。イン戦に自信がなかったのもあるけど、自分のパターンで勝ちたいという気持ちがありました。引っ張った割には中途半端なレースになってしまいましたね。スタートもバチッと決まりませんでした。もう少し伸びる予定やったんだけど・・・(苦笑)。

―なぜ、最近は枠なりスタイルに?

山田  何でもできなアカン、という時代に変わってきましたからねえ。今のプロペラやモーターは伸び型にしようと調整しても実際にレースで伸びるかと言えば、伸びないことの方が多くなっています。結局は、一番効率良く稼げるように持って行くようになります。僕も今の特性のモーターでは、伸び型にしようと思いません。レース足が良くて、ターンでしっかり曲がれるように仕上げています。

GIタイトル通算4勝はすべてびわこで獲得

1998年・開設45周年

1999年・近畿地区選手権

1999年・開設47周年

2000年・開設48周年


うねり攻略法は「コケたらしゃあないな」

―びわこ独自の調整はありますか?

山田  毎年、感じが違いますね。びわこではモーターを毎年6月に下ろします。盆から秋、正月くらいまでに1節か2節走ってみて「今回のモーターはこんな感じやな」というのが見つかれば、次のモーター更新までは、まあまあ行けるんです。それが「ああでもない、こうでもない・・・」という状態のまま冬場まで行ってしまうと、訳がわからんようになってしまいます。
 今年の正月はフライング休みでしたけど、盆と12月、1月、2月の匠シリーズと4節走って、だいたいの感触はつかめています。

―びわこのうねりを攻略するには?

山田  根性だけ(笑)。「これでコケたらしゃあないな」と思って行くだけです。うねりは自然の力なんで、自分の力でどうにかしようと思っても無理。
 実際にサイドがうまく掛かってくれるか、掛かってくれないかは結果論です。ここを曲がろうと思った場所に良い波がガーンと来てくれるときもあるし、こっちがハンドルを切っているのに、良い波が来なくてブッ飛んでしまうこともあります。僕に来ていなければ、良い波は他のコースの人のところに来ているわけで。
 まあ、乗り慣れているだけ、「春のびわこは、こんなもんやな」と思えるのは有利かもしれません。遠征の人は「こんなにうねるの?」と思うかもしれないけど、そこで「普通ですよ」と言えるくらいの経験はあります。

経験豊富なマスターズは「引き出しの出し合い」

―地元マスターズへの意気込みを!

山田  今のマスターズの出場選手は有名な方ばっかりで、正直、レベルの高さについて行けないところがあります。ターン漏れもしないし、走るところもしっかりしているので、なかなかつけ入るスキがありませんでしたね。
 ただ、マスターズに出て、「コース取られへんかったら勝負になりません」っていう風にはなりたくない。だから、外枠でもレースができるようになっておかないとアカンと、意識して走ってきました。マスターズに出場する年齢になった2年前から、ここが勝負というレース以外では、一般戦でも前付けに行っていません。
 それに、びわこでコースを突っ張っても良いことはありません。1号艇なら突っ張るやろうけど、2コースで100m起こしなんて、損をしに行っているようなもんです(笑)。
 マスターズは今までに培ってきた技術っていうか、引き出しの出し合いになります。僕も、今までに培ってきたものを全部出して、自分の仕事をやり切るつもりです。

―では、優勝戦はやっぱりカド捲りで?

山田  いやいや、そこはインから逃げるのが一番ですよ! ボートレースはインから逃げないと始まらないでしょう(笑)。アカンかったときに「まあ、びわこはカドも利くし大丈夫」というくらいの感じで、カドは保険みたいなもんです。

山田  豊 選手 データ室
(2016年3月6日現在)

◆通算成績

出走回数 優出 優勝 2連率 3連率
通 算 7,439回 246回 48回 45.2% 62.3%
S G 294回 1回 0回 31.6% 43.5%
G I 1,504回 19回 4回 33.2% 50.3%
◆全国成績(最近3節)
16年 3月 児 島 一般競走 6 1 1 1 4 3 4 2 5 1 6
16年 2月 びわこ 匠シリーズ 1 1 3 2 1 6 2 1 3 4 1 1
16年 2月 尼 崎 GI・地区選 6 1 2 2 4 3 5 2 2
◆びわこ成績(最近2節)
16年 2月 匠シリーズ 1 1 3 2 1 6 2 1 3 4 1 1
16年 1月 一般競走 1 1 1 3 5 5 3 1 2 3 5 4