the INTERVIEW

「もう一度グランプリへ 行くため、
マスターズCで賞金上積みを目指します」

PGIマスターズチャンピオンの年齢制限が45歳以上に引き下げられて、今回は3回目の大会となる。ドリーム1号艇を手にしたのは徳増秀樹だ。初のマスターズC出場に「名人戦と呼んでいた頃のイメージとはギャップがある」と話すが、相手の心理を読んだ上で組み立てるレースは、“一枚上手”と多くのファンを唸らせる。

昨年、選手生活25年目にして初のグランプリ出場を果たした。進化するマスターズレーサー・徳増の過去と今、そして未来を語ってもらった。

(インタビュー&構成/『マンスリーBOAT RACE』依藤研二)

マスターズCデビューは経験値的に「早すぎる」

― マスターズ世代になりました。

徳増一言で言うと「早すぎる」ですね。今までのマスターズCのイメージからすると、僕なんかはまだボートレースのことをわかっていないし、昔を懐かしむ気持ちでもない。レースに味があるわけではないし、深みがあるわけでもない。まだ経験が足りないと思っているので、出してもらうのが申し訳ないという気持ちがあります。そういう意味で、僕にはまだ早いです。

― 昨年はグランプリ初出場を果たしました。

徳増浮き足だっていましたね。だから、もう1回グランプリへ行かないと。何もできず、1回ポッキリの出場で終わったら、何をしにグランプリに行ったのかわからない。反省を踏まえて、もう一度レースをしたい。このままでは終わりたくないと思っています。

マスターズCは45歳以上の特権です。SGを走っている人たちは、年齢的にマスターズCに出られない人のほうが多い。少しでも賞金を上積みするために、準優、優勝戦に乗ることを目指します。

最多勝選手になってもGIタイトルが獲れなかった

― 2006年、浜名湖で2節連続完全優勝を達成されました。

徳増その前の年に、獲れそうだった年間最多勝選手のタイトルが獲れなかった。まだタイトルを何も獲っていなかった頃です。

1回目の完全Vはちょうど藤田靖弘、鈴木峻佑がデビューした節で、後輩に対して「どうだ、お前らもこうなれよ」という感じでした。ちょっと調子に乗っていましたね。

2回目はGIII企業杯で、優勝戦ではピット離れでも微妙な場面がありましたけど、何とか完全Vを達成できました。

06年は、それまでで一番良いパフォーマンスができたんじゃないかなと思います。ダービーのドリーム戦に乗ることも意識して、それでダービー勝率5番目に入れたし、最多勝も獲れましたから。

― ただ、なかなかGIタイトルには手が届きませんでした。

徳増実力が伴っていなかったんでしょうね。優勝できるチャンスは何度かあったのに、勝てなかった。今ならそれなりに対応できるんじゃないかと思う状況もありました。

経験不足、人間的にも成長できていなかったんだと思います。

― 同県同期の今坂勝広さん(15年逝去)が先にSG・GIで活躍していましたが…。

徳増今ちゃんはライバルです。若い頃はバチバチしていた時期もありました。デビューした頃は、今ちゃんが僕よりも先に活躍していたので、「オレが何で今坂に負けなきゃいけないんだ!」という気持ちがありました。でも、そう思っているうちは、その程度の器なんですよ。お互いに認め合えるようになってから、僕の成績も上がってきました。昔は悪い意味でのライバル、今は良い意味でのライバルです。

今でも良いライバルですよ。今ちゃんに「何やってんだよ。オレだったらこうできるぞ」って笑われないように、文句を言われないようにやっています。目に見えない相手がライバルなんでしんどいけど続けられる。続けなければいけない。僕にとって大きな存在です。

F2の代償は愛車との別れ…覚悟を決めた2013年

― 成績が上がる転機となったのは?

徳増一番変わったのが結婚ですね。10年前なんですけど。自分1人でいるのと、守らないといけないものがあるのとでは、覚悟が違います。

確かに、若い頃は勢いがあったと思いますが、勢いのあるうちにタイトルを獲れなかった。あの頃にポンポンと獲っていれば、もう少し早く上のレベルまで行けたとは思います。時間は掛かりましたが、それができなかったから、一から地力を固めることができたという面もあります。

― GI初制覇が10年前の浜名湖56周年です。

徳増GI初制覇は子供がお腹にいた頃で、「獲らないといけない」と必死でした。やっと1つ獲れて「ここからがスタートだな」と…。

― 13年の尼崎61周年で2度目のGIタイトルを獲得しました。

徳増あの時は、実はお金がなくて(苦笑)。結婚した当初は独身の頃の貯金があったけど、家族がいると「こんなにお金が掛かるのか」っていうくらいに…。

F2も痛手でした。独身の頃はF2をしても痛くはなかったのに、家庭を持つと生活ができなくなる。結局、12年に車を売ることになりました。自分へのご褒美というか、ステータスとして買った車なのに、それを売るなんて…。こんなに寂しいことはなかったですね。

そのF2の呪縛が解けたのが13年です。レーススタイルに“覚悟”ができたのもその頃です。ちゃんと家族を生活できる形にしないといけない、生半可な気持ちじゃ生活できないと。

タイミングからスピードへスタートの重点を切り替える

― レーススタイルに“覚悟”とは?

徳増昔はスタートは置きに行くことも多かったんです。わからなくても、とりあえず0台を行っておこうというレースですが、それは1つ間違えるとフライングです。それだったら0台のスタートを行かず、ダッシュの乗ったスタートをしようと。質の良いスタートですね。そのほうが自分に有利になる勝負もできます。その後はフライングの本数や、切るスパンも変わってきました。

― 18年の常滑・東海地区選手権はまさにスタート力を見せつけたシリーズでした。

徳増あの節は、初日から0台のスタートが決まっていました。僕を意識したのかはわからないけど、準優では1号艇の磯部誠がスタートを放り、優勝戦では僕より前にいた平本真之がフライング。

僕が準優で0台を行って磯部を捲りましたから、平本は「放れない」という気持ちが頭にあったんでしょう。相手に“スタートでプレッシャーを掛けるぞ”というイメージを植え付けながら、上手くレースを組み立てられたシリーズでした。

進入で1つ内に入ったら着を拾えるイメージが沸いた

住之江・SG第28回
グランプリシリーズ 予選
(2013年12月21日・第6レース)
着順 枠番 選手名 支部 進入 ST
1 6 徳増 秀樹 (静岡) 5 05
2 2 白井 英治 (山口) 2 08
3 1 中岡 正彦 (香川) 1 06
4 4 平山 智加 (香川) 4 14
5 3 土屋 智則 (群馬) 3 12
5 吉田 拡郎 (岡山) 6 10

2連単 6-2 5,560円(15番人気)
3連単 6-2-1 15,770円(47番人気)
決まり手=捲り差し

― ほかにレーススタイルで変えたことは?

徳増一番はコース取りですね。13年のGPシリーズ予選最終日の6号艇で、3等を獲らないと準優に乗れないというレースで、6コースで着を拾えるイメージが全くできなくて…。エンジンは動いていたので、深くても良いからと進入で動きました。

結局、5コースカド受けの100m起こしだったんですけど、捲り差し1等で勝負駆け成功です。皆が僕に「オォー! 」ってなったレースです。

あれは覚悟を決めてレースしていました。「絶対にコースを取りに行く。絶対にスタートで遅れない」と。その辺りから「5コースになるだけで着を拾えるイメージが沸く。6号艇なら動くというスタイルでやっていける」という手応えを感じるようになりました。

― 最近では、進入で動くスタイルも定着してきました。

徳増6号艇なら動くことが皆に知れ渡ったので、最近は簡単にコースを取れなくなってきています。僕がいると、スタ展から皆が“ワーッ”と対応してきます。それに対して自分はどう動くのか、そこが今の課題です。

もちろん、6号艇で動くスタイルを続けないと、今まで僕がそれをやって負けちゃった選手に申し訳が立たないので続けます。ただ、何が何でも動くじゃなくて、戦略的にメリハリをつけながら勝てる可能性を探りたいですね。

仕事に集中できる環境を作るフライング休みの過ごし方

― 今回のマスターズCはフライング休み明け3節目になります。

徳増せっかくの休みなので、普段はなかなかできない、家族との時間に当てたいと思っています。転戦、転戦の中でも、家族のことをちゃんと考えていれば、安心してレースに行けます。家庭が安定していないと、自分に余裕がなくなって成績も悪くなり、悪循環に陥ることを身にしみて感じています。家族あっての自分だと気づいたので、家庭を安定させて、仕事に集中できる環境を作ることが、僕のフライング休みの過ごし方です。

ただ、それを言い訳に「休み明けの成績が悪いじゃないか」と言われないようにしたいです。だから、F休み明けの宮島一般戦(4月2日~6日)が一番大事です。そこでリズムを作って、記念戦線に乗り込みます。

― 津マスターズCに向けての抱負をお願いします。

徳増今年に限らずなんですけど、「あと30年やらせてください」ですね(笑)。何年か前から「あと30年」って言いながらやっています。そうやらないと、60歳まで持たないでしょう?

30年後もマスターズCを走れるように、情熱を持って、あと30年走り続けたいですね。

◆通算成績(2020年3月1日現在)

出走回数 優出 優勝 2連率 3連率
全種別 6,133回 276回 86回 52.5% 64.7%
S G 425回 8回 0回 32.0% 43.5%
G I 1,405回 28回 3回 40.4% 53.2%
Profile

とくます ひでき
1974年11月29日生まれ。静岡支部・75期。
1994年11月、浜名湖でデビュー。97年8月、津・タイトル戦で初優勝。2010年3月、浜名湖・周年記念でGI初優勝。SGは03年11月のびわこ・チャレンジCで初出場、09年7月、若松・オーシャンカップで初優出。昨年はクラシック優出から賞金18位以内をキープし、初のグランプリ出場を果たした。最多勝利争いの常連で、19年は年間1着数7位、18年は3位だった。同期には今回のマスターズCに出場する上平真二、林美憲、岡瀬正人らがいる。